確定申告なしでも配当を保険料に算入へ——後期高齢者医療制度の改正、あなたのNISAが対象外である理由【2026年8月】
投資初心者向け。2026年8月、後期高齢者医療制度(75歳以上)の改正で確定申告なしの配当・売却益も保険料算定に算入へ。NISA口座は対象外である理由と、年収280万円モデル世帯の試算(窓口負担1割→2割、保険料12万円→17万円)を解説。
確定申告なしでも配当を保険料に算入へ——NISAが対象外である理由
投資初心者でも分かるように解説します。
(はじめにお断りしておくと、私はポートフォリオ管理ツールPFWiseの運営者です。記事の後半で自分のサービスにも触れます。)
2026年8月18日、日経平均株価は前日比1,759.52円安の67,460.73円で取引を終え、5営業日続けていた上昇が止まりました。原油価格の上昇(中東情勢への警戒)や金利観測の高まり、ここ数日買われていたAI・半導体関連株の利益確定売りが背景とされています。値動きの大きい一日でしたが、今日取り上げたいのは市場の話ではありません。ここ5日でAI・半導体関連の記事を3本続けたので、今日はSNSで静かに広がっている社会保障制度の話を整理します。
X(旧Twitter)で、「後期高齢者医療制度」「金融所得」「NISA」といった単語が並ぶ投稿がここ数日、300件を超える"いいね"を集めて広がっています。内容を要約すると、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度で、確定申告をしていない株式の配当や売却益も、保険料や窓口負担割合の計算に含まれるようになる、という制度改正です。厚生労働省が資料を公表し、日本経済新聞をはじめとする複数のメディアが報じています。投稿への反応を見ると、「NISAの含み益も結局は把握されて負担が増えるのでは」という不安の声が少なくありません。
結論を先に書きます。この改正で、NISA口座の中の配当・売却益が保険料や窓口負担割合の計算に使われることはありません。厚生労働省の説明資料そのものに、「非課税のNISAは対象外です」と明記されています。なぜ対象外なのか、そしてこの改正が実際には何を変えるのかを、順番に整理します。
この改正が具体的に何を変えるのか、まずは「これまで何が起きていたか」から見ていきます。
なぜ「確定申告しなければ見えなかった」のか
後期高齢者医療制度の保険料や窓口負担割合は、その人の所得に応じて決まります。ここでいう所得には、年金収入だけでなく、株式の配当や売却益といった金融所得も本来は含まれます。ただし、現在の仕組みには抜け道があります。株式の配当や売却益は、証券口座の種類(源泉徴収ありの特定口座など)によっては確定申告をしなくても納税が完結する仕組みがあります。確定申告をしなければ、その所得は税務署以外の行政手続きからは見えにくくなります。後期高齢者医療制度の保険料計算もその1つで、確定申告をしていない配当・売却益は、これまで保険料や窓口負担割合の判定に反映されていませんでした。
つまり、同じ金額の配当を受け取っていても、確定申告をするかどうかで保険料や窓口負担割合が変わりうる、という状態がこれまで続いていました。今回の改正が変えるのは、まさにこの部分です。
健康保険法などの改正により、証券会社や銀行といった金融機関が、顧客の配当・売却益の情報を法定調書として行政に提出する仕組みが整えられます。これにより、確定申告をしていなくても、後期高齢者医療制度を運営する広域連合が金融所得を把握できるようになります。「申告しなければ見えない」という状態そのものが、制度の設計として塞がれる形です。
年収280万円・配当50万円のケースで、負担はどう変わるか
抽象的な話が続いたので、具体的な金額で確認します。日本経済新聞が報じているモデル世帯は、70代後半の夫婦で、被保険者本人が年金など230万円に上場株式の配当50万円を加えた280万円、配偶者は基礎年金83万円という前提です(厚生労働省の資料原文の注記による)。以下の試算は、この本人分280万円に対する保険料です。
被保険者本人が確定申告をしない場合、改正前の現在は窓口負担1割、年間の保険料はおよそ12万円です。ところが改正後は、同じように確定申告をしなくても、窓口負担が2割に切り替わり、年間の保険料はおよそ17万円になる、という試算が示されています。この試算はもともと厚生労働省の資料に掲載されている例で、資料原文の数字は窓口負担1割で年118,928円(月9,911円)、窓口負担2割で年169,978円(月14,165円)です。日本経済新聞が報じた「12万円→17万円」は、この数字を分かりやすく丸めた表現です。
差額は年間およそ5万円で、50万円の配当収入のおよそ10%にあたります(資料原文の数字では51,050円・約10.2%)。月あたりに直すと、およそ4,200円の負担増です。ちなみに、本人が最初から配当を確定申告していた場合は、今も改正後も窓口負担2割・保険料約17万円で変わりません。つまり現状は「申告しない方が年5万円得をする」状態で、改正後はその差がなくなり、申告してもしなくても同じ額にそろう、というのが今回の変更の実質的な中身です。
配当収入がもっと大きいケースでは、差はさらに開きます。LIMO(Yahoo!ニュース配信)が報じた別の試算例では、配当収入500万円のケースで、確定申告をしなければ窓口負担1割・年間保険料はおよそ1万5,000円、確定申告をすると窓口負担3割・およそ52万円になるとされ、34倍以上の開きになっています。ただし、この500万円のケースと上記280万円のモデル世帯とでは年金など所得の土台がそもそも異なるため、「同じ世帯の配当だけが増えたら」という単純な比較はできません。それぞれ別の世帯モデルの試算として、参考程度に見るのが適切です。今回の改正は、この「申告するかどうかで大きく変わる」という状態を、申告の有無にかかわらず金融機関からの法定調書で均等に捕捉する方向にそろえていく、という話です。
NISA口座が対象外である「構造的な理由」
ここが今回の記事でいちばん伝えたいポイントです。NISA口座で得た配当・分配金・売却益は、今回の改正の対象に含まれません。厚生労働省の説明資料には、この点がひとことで明記されています。「非課税のNISAは対象外です」。マネーライフハックの解説記事でも、「NISA口座で取得した上場株式や投資信託の配当・分配金、売却益は、制度要件を満たして非課税となる限り、今回の金融所得反映の対象外です」と、同じ内容がかみ砕いて説明されています。
なぜ対象外なのか、理由を確認しておきます。今回の改正で新しく保険料・窓口負担割合の判定に反映されるようになるのは、確定申告をすれば税務署が把握でき、確定申告をしなくても金融機関からの法定調書を通じて把握できるようになる「課税所得としての金融所得」です。NISA口座の配当・分配金・売却益は、制度要件を満たす限り非課税で、最初から所得税・住民税の課税対象になる「所得」として扱われません。確定申告の対象にもなりません。なお、NISA口座についても金融機関は非課税口座年間取引報告書(法定調書の一種)を税務署に提出していますが、これは非課税であることを確認するための報告であり、今回の改正が参照する「課税所得としての金融所得」には該当しません。この改正の対象になるかどうかを分けているのは、法定調書が出るか出ないかではなく、非課税か課税対象かという所得の性質そのものです。
言い換えると、NISAが対象外であることは、現時点の制度スコープとして厚生労働省の資料に明記されています。非課税制度であるNISAの利益は、確定申告や法定調書を通じて把握される「課税所得としての金融所得」の枠内に、制度の作り自体としてもともと入らないという位置づけです。NISA制度そのものの仕組みを年代別モデルポートフォリオやリバランスの考え方まで含めて確認しておきたい方は、NISAポートフォリオの作り方 完全ガイドも参考にしてください。
この改正であなたのNISA・オルカン・S&P500積立はどうなる?
ここまでの内容を、あなた自身の積立に当てはめて整理します。
今日時点では、何も変わりません。今回の改正はまだ施行されておらず、対象も75歳以上(一定の障害がある場合は65歳以上も含む)の後期高齢者医療制度の加入者に限られます。25〜45歳の読者が新NISAでオルカンやS&P500を積み立てているなら、保有している商品にも、含み益にも、今日この瞬間、一切影響はありません。オルカンとS&P500のどちらを選ぶべきか迷っている場合は、こちらの比較記事で構造や値動きの違いを整理しています。
施行が見込まれる2030年前後になっても、NISA口座の中身については変わりません。前のセクションで見た通り、NISAの利益は非課税制度の構造上、この改正の対象そのものに含まれないからです。あなたが40代でオルカンを積み立てていて、それが75歳になるまでNISA口座の中にあり続けるなら、今回の改正が直接影響することはありません。
では何が変われば、この改正があなたに関係してくるのか。条件は2つ重なる必要があります。1つ目は、NISAの外に金額の大きい課税口座(特定口座・一般口座)を持っていて、そこから配当・売却益を得ていること。2つ目は、あなた自身が75歳以上になり、後期高齢者医療制度に加入していること。この2つが同時に成立して初めて、確定申告をしていない金融所得が保険料・窓口負担割合の判定に算入されるようになります。
新NISAでオルカン・S&P500を積み立てているあなたに、あらためて聞いてみます。あなたのNISA口座の含み益は、今回の改正で何か変わるでしょうか。ここまで読んでいただければ、答えは「変わらない」だと分かるはずです。変わるとしたら、それはNISAの外側で、しかも75歳以上になってからの話です。
それでも消えない疑問:NISAの非課税は、この先もずっと続くのか
ここまで読んでも、もう1つ引っかかる点があるかもしれません。「今回は対象外だとしても、NISAの非課税がこの先もずっと保証されているわけではないのでは」という疑問です。正直に書くと、この疑問への答えは半分「はい」で半分「いいえ」です。
「今回の改正でNISAが変わることはない」という点は、確実に言えます。厚生労働省の資料にNISA除外が明記されており、今回の法改正はNISAの非課税措置そのものには一切手を付けていません。
一方で、「NISAの非課税が未来永劫変わらない」とまでは、誰にも保証できません。NISAの非課税措置は租税特別措置法という法律にもとづく制度で、法律である以上、将来の国会審議によって内容が変更される可能性はゼロではありません。実際、NISAは2024年に制度自体が新NISAへと大きく作り替えられた実績があります。
ただし、それは今回のニュースとは別の話です。今回話題になっている後期高齢者医療制度の改正は、NISAの非課税措置には触れていません。「今回の改正でNISAも危ない」という不安と、「NISAは何があっても未来永劫安泰」という過信、そのどちらも今の時点では正確な理解ではない、というのが私の受け止め方です。
SNSで不安な投稿を見たときに、自分で確認する視点
SNSで不安をあおるような投稿を見たときに、自分でできる確認は2つです。
1つ目は、投稿のもとになっている一次情報を探すこと。今回であれば厚生労働省の説明資料や、日本経済新聞のような実名の報道機関の記事にあたれば、対象が75歳以上(一定の障害がある場合は65歳以上も含む)の後期高齢者医療制度に限られることも、NISAが対象外であることも、数分で確認できます。SNSの要約や引用ポストだけで判断するより、時間はかかりませんし、はるかに確実です。
2つ目は、自分に関係があるかどうかを「年齢」と「口座の種類」の2点だけで判定すること。75歳以上(一定の障害がある場合は65歳以上)でなければ、今日のところは関係がありません。75歳以上であっても、金融所得のすべてがNISA口座の中にあるなら、今回の改正では変わりません。この2点さえ押さえておけば、似たような制度改正のニュースが今後出てきても、その都度SNSの反応に振り回されずに済みます。
まとめ:NISAは対象外、今日から変えることは何もない
- 2026年8月、厚生労働省の資料をもとに、後期高齢者医療制度(75歳以上が加入する医療保険制度)の改正が報じられている。確定申告をしていない株式の配当・売却益も、金融機関からの法定調書を通じて保険料・窓口負担割合の判定に算入されるようになる
- NISA口座内の配当・分配金・売却益はこの改正の対象外。非課税制度であるNISAの利益は、確定申告や法定調書を前提とするこの改正の枠の外にあるという、制度の構造上の理由による
- 対象は75歳以上(一定の障害がある場合は65歳以上も含む)。25〜45歳の読者が今日から変わることはない。施行日は未確定で、法律上は公布から5年以内に政令(内閣が定める細則)で定める。実際に投資利益が影響するのは2030年前後からと報じられている
- 日本経済新聞が報じたモデル世帯(被保険者本人が年金など230万円に配当50万円を加えた280万円(配偶者は基礎年金83万円)、本人が確定申告しない70代後半夫婦)では、窓口負担が1割から2割に切り替わり、年間保険料はおよそ12万円から17万円になる試算。厚生労働省の資料原文の数字では差額は51,050円で、配当50万円のおよそ10.2%にあたる
- 厚生労働省の資料原文は表と2つの要点だけの簡潔な1ページで、試算例の受け止め方についての注記は見当たらなかった。SNSで不安な投稿を見たら、年齢と口座種別の2点を一次情報で確認すればいい
今回調べていて印象に残ったのは、厚生労働省の資料そのものが、1ページの図解に要点を2つの箇条書きでまとめただけの、驚くほど簡潔な資料だった点でした。制度の話は、見出しだけを追うと不安が先に立ちますが、一次資料に一度あたってみると、書いてあることは意外と限定的だったりします。NISAで積み立てているオルカンやS&P500は、今日も、この改正が施行されたあとも、この件では変わりません。
PFWiseのポートフォリオ診断では、NISA口座と課税口座を分けて保有状況を確認できます。自分の資産のどこまでがNISAの中にあるかを把握しておけば、今回のような制度改正のニュースが流れてきたときも、自分に関係があるかどうかを数字で判断できます。
関連書籍(もっと学びたい方へ)
最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい
中野晴啓
制度がどう変わっても、NISA口座の中で何を積み立てるかという判断基準は変わらない。今回のような周辺ニュースに気を取られたときこそ、そもそも自分が何を基準に商品を選んだのかを確認するための1冊。
ウォール街のランダム・ウォーカー(原著第13版)
バートン・マルキール
後期高齢者医療制度も、確定申告の要否も、75歳になるまでの数十年間で何度も制度が変わりうる。長期のインデックス投資が、制度変更や短期のニュースに振り回されずに機能する理由を、歴史とデータで示した一冊。
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免責事項
※後期高齢者医療制度における金融所得の反映に関する記述は、厚生労働省の説明資料(mhlw.go.jp)、日本経済新聞(2026年8月、nikkei.com)、マネーライフハック(money-lifehack.com)、山田会計グループ(yamadakaikei-go.jp)の報道・解説記事にもとづきます。法律上、施行日は公布後5年以内に政令で定めることとされており、日本経済新聞は実際に投資利益が影響するのは2030年前後からと報じていますが、確定した施行日ではありません。
※モデル世帯の試算(70代後半夫婦・被保険者本人は年金など230万円に配当50万円を加えた280万円、配偶者は基礎年金83万円、本人が確定申告しない場合の窓口負担1割から2割、年間保険料約12万円から約17万円)は、厚生労働省の説明資料に掲載された例を日本経済新聞が報じたものです。厚生労働省の資料原文における本人分の実際の数値は、窓口負担1割で年118,928円(月9,911円)、窓口負担2割で年169,978円(月14,165円)です。配当収入500万円のケース(確定申告なしで窓口負担1割・年間保険料約1万5,000円、確定申告ありで窓口負担3割・約52万円)はLIMO(Yahoo!ニュース配信)が報じた別の試算例で、上記280万円のモデル世帯とは前提となる収入の水準が異なります。
※NISA口座内の配当・分配金・売却益が今回の金融所得反映の対象外である旨は、厚生労働省の説明資料(「非課税のNISAは対象外です」との記載)にもとづき、マネーライフハックの解説記事の説明もあわせて参照しています。将来の税制・社会保障制度の法改正によってNISAの取り扱いが変更される可能性を完全に否定するものではありませんが、本記事執筆時点で今回の改正がNISAの非課税措置に変更を加える内容は確認されていません。
※日経平均株価(2026年8月18日終値67,460.73円・前日比マイナス1,759.52円)、原油価格の上昇や金利観測、AI・半導体関連株の利益確定売りに関する記述は同日の市場報道にもとづきます。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の税務・社会保険・投資判断を推奨するものではありません。実際の保険料・窓口負担割合はご自身の所得・世帯構成・お住まいの市区町村(広域連合)によって異なるため、詳細は厚生労働省・お住まいの自治体・税理士等の専門家にご確認ください。
※過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。
※本記事はPFWiseの運営者が執筆しており、個人的な見解を含みます。書籍リンクはAmazonアソシエイトのアフィリエイトリンクです。